あのとき、私は絶賛大学生を謳歌中だった。
大学3回生の夏、暇を持て余してダラダラしてると、ゼミの友人たちが遊びにやってきた。
来年から就活で忙しくなるし、思い出づくりに行こうと行って、向かった先は大学で最恐の心霊スポットと話題になっている某大学病院の廃墟だった。
ダラダラしていると
正直、私は心霊とか最恐とか全く興味がない、むしろダラダラと過ごしていたかった。
しかしメンツにはT君が混ざっていたのです。
T君はイケメンではないのですが好みの顔立ち、気遣いが上手で、入学当時から好きだったけれど、コミュ障の私は告白できないままでした。
友人の何人かは知っているので、ふと思い出づくりとは・・・そういう事なのか!と視線を向けるとニヤリ。
「きゃあ怖い!」
「大丈夫、僕がいるよ」
定番のアレを目論み、上手くしたら・・・その先まで・・・当時の私は本気で考えていました。
そうしたら少し着飾らなくては、でも行く先は心霊スポット、動きにくい格好だと皆に迷惑をかける。そこでふと目についたのが、ドレッサーにおいてあった母の指輪です。
母がいつかの結婚記念日にもらった大きめのルビーがついた指輪で、そもそもオシャレセンスの無い私は「コレだ!カワイイ!」と思って、こっそり持ち出したのでした。
心霊スポットへ
私たち一行は病院の廃墟に着いた瞬間、おどろおどろしい雰囲気に圧倒され、思っていた以上にビビり散らかしていました。
誰かが「なーにビビってんの!」なんて強がりを言いますが、声が震えている時点でお察です。
そんな中でも公認カップルはべったり寄り添って、妙に良いムードを出しているのに、お目当てのT君は私の存在なんてどうでもいいとばかりに、はしゃぎながら先頭を突き進んでいます。
自分の不器用さを恨みつつ、私たちは一番危ないと噂されている慰霊碑に到着したのでした。
噂によれば、この病院では新薬の実験を秘密裏に患者で行っていて、何人も人がなくっている。
その霊を供養するための慰霊碑で、手を繋いで周りを三周すると、最後尾の人間が霊に連れていかれるらしいのです。
じゃんけんで順番を決めると、よりにもよって私がその最後尾になったのですが、すぐ前がT君なので、内心では手を繋げることが嬉しくてたまらず、霊なんか知るかという気分でした。
幽霊なの?
一周、二周、三周。
こんな時間がずっと続けばいいと思った瞬間、先頭の友人が「きゃーーーーー!」と悲鳴を上げたのです。
何が起きたのか分からない、考える暇もなく、全員がパニックになって車へ全力疾走。
車に乗り込むも、定番すぎる展開でエンジンがかかりません。
運転手の先輩が何度鍵を回しても、「キュルキュルキュル」と虚しくセル音だけが響く。
そのとき、先ほど悲鳴をあげた友人が車の後ろの窓を指差し、また叫ぶ。
「きゃーーーーー!」
全員が振り返ると闇の中から人影のようなものが、こちらへ近づいてくるのが見えた。
車内は絶叫と混乱で無法地帯と化した、次の瞬間、ようやくエンジンがかかった。
先輩は思いっきりアクセルを踏み込み、あの場所から逃げ出したのでした。
ファミレスで起きた悲劇
自宅へ帰る前に、一度ファミレスへ寄って落ち着こうということになった。
「何だったんだろう・・・」
「幽霊が出たのだろうか」
なんて話していたとき、ふと気がついたのです。
指輪のルビーが無くなっていた。
肝試しより何より、母にめちゃくちゃ怒られる未来が脳裏に浮かんで背筋が冷えました。
次の日、見つかる前に何とかしようと、似た石を嵌めてもらえないかとジュエリーの修理店を調べて向かったのです。
担当者に見せると、「指輪本体には傷がなく、宝石を押さえる爪も歪んでいない。普通なら石だけ外れる状態じゃない」と説明され、少し眉をひそめながら「これ、どういう落ち方したんですか?」と聞かれました。
仕方なく、昨夜の肝試しの話を気まずい空気の中で打ち明けると、担当者は妙に納得した顔で言った。
「それ、運が良かったね。指輪してなかったら、たぶん連れていかれてたよ。」
担当者曰く、そういうスピリチュアルな事に詳しい方で、宝石にはお守りとしての側面があり、時に身代わりになることがあるらしいのです。
私は妙に納得し修理費は痛かったが、母に激怒されるよりはマシだと。
直した指輪をこっそり元の場所に戻すと、仕上がりが完璧だったのか、結局母には何も気づかれませんでした。
後日談
私たちが病院の廃墟から、ビビり散らし逃げ帰った一連の騒ぎ。
ルビーが消え、車が動かず、人影が迫る。あれ全部、本当に霊の仕業だと思っていました。
ですが後日、その認識は粉々に砕かれたのです。
公認カップルのA子と先輩、外ではラブラブを演じていたが、裏では関係が冷えきっていたらしい。
そこでA子が考えたのが、あの肝試し計画だったのです。
皆がビビって悲鳴を上げ、車が動かない状況に焦り、最後はありもしない人影に絶叫。
あれらはほとんどが仕込みで、A子はすべてが上手くいったと内心笑っていたそうです。
つまし、ふたりの仲を深めるための演出だった事を後から知ったのでした。
皆を送ったあと、A子は先輩に「怖かったから一緒にいて」と甘え込み、そのまま朝チュンしたらしい。
つまり、全員まとめて彼女らの小道具にされたわけで・・・。
私は口が開いたまま閉じませんでした。
そんな中で唯一、まともだったのがT君。
数日後の昼間、私が失くしたルビーを探すため、ひとりであの心霊スポットに行ってくれたのです。
すると、慰霊碑の台座にルビーがちょこんと置かれていたらしく、それを届けてくれました。
この出来事がきっかけで私とT君は付き合うようになった。
一方、A子と先輩は、仕込みの悪質さが露呈して大ゲンカになり、あっさり破局。
幽霊なんかいやしないけれど、心霊スポットのお陰でいい目をみれたかな?
※画像はイメージです。


思った事を何でも!ネガティブOK!