第二次世界大戦における最大の戦いは、1941年6月22日にナチス・ドイツが発動したバルバロッサ作戦に始まる当時のソ連への侵攻であり、これが所謂、今日では独ソ戦と呼ばれる戦いである。
独ソ戦は当初は侵攻した側のナチス・ドイツが主導権を持ち、攻勢を行う形で開始されたが、1943年初頭の世界史上最大の市街戦として名高いスターリングラード攻防戦を境にソ連側が主導権を奪取した。
結果的にソ連は1945年5月にはナチス・ドイツの首都・ベルリンに迄進撃する大反攻を成功させ、独ソ戦に勝利し、今はロシアとなった同国でもこれを大祖国戦争と呼称して国威発揚に利用している。
凡そ4年間に及んだ独ソ戦は、諸説はあるがナチス・ドイツ側が凡そ1,000万人以上、ソ連側が凡そ2,600万人以上の犠牲者を出した、史上最大の地上戦として今後もこの規模の戦いが生じる事はまずないだろう。
独ソ戦はナチス・ドイツとソ連と言う当時の世界の二大陸軍国が総力を挙げて挑んだ戦いであり、故に戦術的なレベルでは戦車の性能の優劣が戦いの趨勢を占う側面もあったとも人的には思える。
その中でソ連はT-34中戦車やKV-1重戦車などを投入し、それまでヨーロッパの西部方面では破竹の勢いで成功を収めたナチス・ドイツ、その戦車を個の性能で上回り、より強力な戦車開発を両国が行う契機となった。
ナチス・ドイツはT-34中戦車の傾斜装甲を取り入れた設計に触発されて、5号戦車パンターを開発、6号ティーガー1型はそれ以前からの設計であったが、ティーガーⅡ型にはこれを組み込んでいる。
ティーガーⅡ型は第二次世界大戦中に実戦投入された戦車としては最重量級の凡そ70トン弱にも達する重戦車だっが総生産数は500両に満たず、鈍重すぎて攻勢に向いた戦車とは言い難いものだった。
それでもナチス・ドイツは敵戦車を圧倒する超重量級戦車を企画、試作車輛まで製造された総重量188トンのマウスはつとに著名で、数多くの創作作品で扱われている事がその要因だろう。
しかしナチス・ドイツは。このマウスすら大きく凌駕する、何と総重量で凡そ1,000トンにも達するLandkreuzer P1000・通称ラーテを企画、ラーテはマウスより大型のネズミの名にあやかり、そう呼称したと言われている。
Landkreuzer P1000 通称ラーテ、企画・開発・仕様
ナチス・ドイツの計画したLandkreuzer P1000・通称ラーテの仕様は、全長が35.0m、全幅が14.0m、全高が11.0メートル、総重量が約1,000トンとされており、設計のみで計画は終了された為、試作車輛などはない。
この仕様がどれだけ桁外れな大きさなのかと言えば、例えば試作までは行われたマウスが、全長10.085m、全幅が3.670m、全高が3.630m、総重要が187.998トンとされているのと比すれば一目瞭然であろう。
因みに量産化された重戦車で第二次世界大戦に投入された中で最強との呼び声も高いティーガーⅡ型は、全長が10.28m、全幅が3.75m、全高が3.09m、総重量が69.8トンなので、マウスは寸法だけならこれに近い。
しかしこのティガーⅡ型とLandkreuzer P1000・通称ラーテは、後者が全長で約3.4倍、全幅で約3.7倍、全高で3.5倍、総重量で約15.7倍以上と、実に比較するのも無意味と思える巨大さである。
主砲の比較でも、ティガーⅡ型が単装の71口径の88mm対戦車砲、マウスが55口径の128mm対戦車砲である事に対し、Landkreuzer P1000・通称ラーテは2連装の54.5口径の283mmと規格外の大型砲を搭載する仕様だった。
このLandkreuzer P1000・通称ラーテの主砲は、当時のドイツ海軍のシャルンホルスト級巡洋戦艦に3連装の主砲として搭載されていたものを、同艦が380mmに換装する計画に合わせ、2連装に改めたものが想定されていた。
これに加えLandkreuzer P1000・通称ラーテには、マウスの主砲と同様の55口径の128mm対戦車砲1門も言わば副砲として搭載する設計となっており、更に4連装の対空機関砲8基と15mm機関砲2基も搭載が企図されている。
これだけの重武装と総重量で1,000トンにも及ぶLandkreuzer P1000・通称ラーテの機関部には、ダイムラーベンツ社若しくはMAN社製の船舶用ディーゼル機関を搭載し、最大で出力17,000馬力、時速40km、続距離約120kmが想定されていた。
この最高時速や航続距離の想定数値は、Landkreuzer P1000・通称ラーテに比すれは遥かに小型のティガーⅡ型と近似値ではあるが、後者ですら実戦ではその重量故に機械的な故障が多発した事を考えれば、現実的とは考えづらい。
ラーテの背景
冒頭で述べたように第二次世界大戦において、双方が最大の犠牲者を出す激戦となった独ソ戦だが、実はナチス・ドイツがLandkreuzer P1000・通称ラーテを企画した背景にはそれ以前の両国の奇妙な政治上の関係があった。
1914年から1918年の延べ4年間に渡って行われた第一次世界大戦では、ドイツはドイツ帝国として中央同盟国、ソ連はロシア帝国として連合国の一員として参戦、東部戦線で矛を交えた。
しかしロシア帝国は1917年2月のロシア革命によって国内にソ連と言う二重政権が生じて同年末に停戦、連合国から外れ、ドイツ帝国は1918年11月に連合国と休戦、その後敗北が確定しワイマール共和国へと移行した。
双方の後継国家となったソ連とワイマール共和国は1922年4月に第一次世界大戦における領土並びに金銭的な要求を相互が放棄するラパロ条約を締結、外交関係を正常化するとどもに経済的な協力を行う事に合意する。
こうして締結されたラパロ条約の元、1930年にドイツ人兵器技師のエドヴァルト・グローテらの一団がソ連に送られ、今日では多砲塔戦車に分類されるTG戦車の設計・開発に従事、これが後の1933年に正式採用されT-35重戦車となった。
ドイツ人兵器技師のエドヴァルト・グローテ自身は1930年に既にドイツに戻され、以後は戦車ではなくドイツ海軍の潜水艦に関する研究・開発に従事、その後の1942年にLandkreuzer P1000・通称ラーテの企画・開発を命じられたとされている。
Landkreuzer P1000・通称ラーテの主砲がシャルンホルスト級巡洋戦艦に3連装の主砲を2連装に改めたものとなった事や、機関部に船舶用ディーゼル機関を搭載する計画となったのは、エドヴァルト・グローテが潜水艦関連の業務に従事して得た知見が大きいと目されている。
但しLandkreuzer P1000・通称ラーテの企画・開発は、当時のナチス・ドイツの政権で軍需相の地位にあったアルベルト・シュペーアが、1942年の末頃までに非現実的だと判断して打ち切られたようだ。
ラーテが実用化に至らなかった理由
前述したようにLandkreuzer P1000・通称ラーテが実用化に至らなかったのは、ときのアルベルト・シュペーア軍需相が非現実的だと判断した事が最大の理由だが、彼がそのような考えに至ったのは実戦投入されたティーガー1型の影響と考えられている。
ティーガーⅠ型は総重量が凡そ57トンの重戦車で1942年9月に先ず4輌が独ソ戦に投入されたが、何れもその自重から湿地帯で行動不能に陥り、そこをソ連軍の対戦車砲の攻撃で破壊され、何とか3輌は回収するも1輌を鹵獲された。
ティーガー1型の57トンと言う重量ですら通過可能な橋梁は限定的で、先のように地面でも自重で行動不能に陥った事を鑑みれば、Landkreuzer P1000・通称ラーテの1,000トンもの重量は実戦での運用はほぼ不可能だったであろう事は想像に難くない。
またティーガー1型の重量でも走行に伴う機械的な故障は頻発しており、仮に地面が強固でも実用に耐え得る足回りを1,000トンもの戦車で実現することは、物理的にこの当時の技術力では困難だっただろう。
Landkreuzer P1000・通称ラーテは正面及び側面で350mm、砲塔と上面でも150mmもの装甲を備え、当時の大半の砲や爆撃にも耐えられる防御力を備えていたとは思われるが、それ以前に走行自体に問題を抱えていたと言えよう。
ラーテ以上の重量の戦車も企画していたナチスドイツ
1,000トンと言う常軌を逸した重量のandkreuzer P1000・通称ラーテは実用化されずに設計段階で終わったが、これ以上の何と1,500トンにも達する戦車もナチス・ドイツは開発計画を進めていた。
これはラントクロイツァー P.1500・通称モンスターと呼ばれる兵器だが、これは戦車と言うよりは実用化されていた800mmシュヴェラー・グスタフ列車砲を自走砲化して、線路外でも運用する事を目的としたものだった。
ただ何れにせよこのラントクロイツァー P.1500・通称モンスターも、Landkreuzer P1000・通称ラーテと同様にそのような重量の車輛を安定稼働させる事は困難との判断で、アルベルト・シュペーア軍需相が開発の中止を決めている。
ラントクロイツァー P.1500・通称モンスターにせよLandkreuzer P1000・通称ラーテにせよ、アドルフ・ヒトラー自身が発案したのではなく、ドイツの軍需省内で企画されたものの推進を命じた形だ。
見た目が派手で強力な兵器をアドルフ・ヒトラーが好んだ事は以外ではないが、ドイツの軍需省内にこのような非現実的な兵器の開発を企画する風土があった事にこそ、個人的には驚きを禁じ得ない。
featured image:Alebo, Public domain, via Wikimedia Commons


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