夜の海

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もうどうにもならんなあ、世の中は・・・それが、わしの口癖だった。
人生なんてのは、適当に生きて、楽しいことを見つけて、なんとかやり過ごせばそれでいい。
そう思っていた。
しかし、2011年のあの大きな揺れが、わしの薄っぺらな人生観を根底から叩き潰したのだ。

福島の出身で、海沿いの静かな町で育った。景色は綺麗だが、何もないような町だった。
地震の後、避難所の体育館で、昔からの知人達と身を寄せていた。「不謹慎ではあるが、これで仕事を休めるかもしれん」などという話をして、恐怖から目を逸らしていた。
しかし夜になり、避難所の電気が完全に消えた時の不安は尋常ではなかった。
何十人もの人間がいるはずなのに、呼吸の音すら聞こえないような気がして、息苦しさに耐えかね、ふらりと外に出た。

真っ暗な海岸線、街灯も家の明かりも消え、すべてが闇に沈んでいた。
すると、遠くから低く響くような声が聞こえてきた。
「おおい」「助けて」
そういうはっきりした声ではないが、沢山の人が同時に小さく震えるような声を発しているように感じられた。

わしはてっきり、生き残った者たちが助けを求めているのだと思ったから、声を張り上げ、テトラポットの近くまで駆け寄った。しかし、そこにいたのは生身の人間とは思えない。
引き波の後の泥の中に、無数の光が浮かんでいた。LEDのような安っぽい光ではなく、冷たく、ぼんやりと輝きながら、確かに意思を持っているように見える光の塊だ。
それらは何百、何千と列をなし、海の方、波にさらわれた場所へと並んでいた。

その時、わしの肩を、かすかに光が叩いた感触がした。耳元で懐かしい声がした。「悪い、先に行くわ」と。
それは、中学の頃から一緒にいた親友だったように思えた。
あの日、震災の数時間前に「また明日な」と別れたばかりのあいつだった。
光の中に、泥だらけのあいつの顔が一瞬だけ見えた。笑っていた。
わしを置いていくことを、どこか申し訳なさそうにしているように見えた。

わしは今、東京でひっそりと暮らしている。
日常は淡々としているが、深夜にスマホの振動が響くと、あの時の感触を思い出す。
あいつらは死んだのではなく、「帰り道」をまだ探しているだけで、暗い海の底、あいつらを呼んでいるような気がする。わしは、その声を聞かないように、今日も一杯やって寝る。

やまじい

「奇妙な話を聞かせ続けて・・・」の応募作品です。
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