ミシシッピ州コロンバス市の郊外からコロンブス湖へをつなぐ道路に、ナッシュロード(Nash Road)と呼ばれている道がある。
そしてこのナッシュロードは、「三本足の女」が現れると噂されるのだ。
ナッシュロードと三本足の女
ナッシュロードがいつ開通したのかは資料が見つからなくて不明、少なくとも 1960年代以前には存在した地元道で実にどうしようもない田舎道があることは確か。
殆どが未舗装の砂利道、街灯は皆無、両方の入口付近に数軒の家はあるが、そこを抜けたら延々と森。夜に入れば視界ゼロの闇が道路を丸ごと飲み込んでしまう。
途中に教会があったようだが、朽ち果てて、空き地だけが残っている。
こんなアメリカのフォークロアの教科書みたいな条件がそろっている道が「何も起きない」わけがない。
それが“三本足の女”。
白く朽ちたワンピース、泥にまみれた顔、そして、第三の足が縫い付けられているかのように見える怪異だ。
噂にはいくつものパターンが存在し、メジャーな物は以下になる。
- 死んだ恋人から切り離され、彼女の体に付けられた
- バラバラにされた娘を探している母親の幽霊で、見つかった足を縫い付けた
- 夫が亡き妻の脚を持ち歩き、その脚が縫い付けられた
- 焼失した教会が悪魔崇拝で異形の女が生まれた
- 浮気相手の脚を縫い付けた
他にも特定の背景を持たず、ただ夜道に“脚の多い幽霊”が現れるとも言われ、共通しているのは生前は人間だったらしいという事だ。
クリーチャーに分類するべきなのか、幽霊に分類するべきなのか、なんとも芒洋とした存在である。
噂の発端
噂が広まり始めた年代を推定すると、70年代後半から80年代前半あたりがもっとも自然。
道路事情や地元民の証言パターンから、当時のてティーンたちが「森の砂利道で女の影を見た」とか「車で走ると追ってくる」とか、どうせその程度の噂をでっち上げて遊んでいたのが出発点とみられる。
真面目に調査しても、それ以前の新聞・書籍・公的資料に三本足の女なんて影も形もない。
つまり比較的新しい創作である可能性が高い。
90年代に入り、口コミやローカル雑誌のようなチープな媒体を通して噂は固定化され、名前も“三本足の女”で定着。
2000年代にネットが普及すると、アメリカの怪談投稿サイトやブログで一気に広まり、そこから「アメリカの心霊ロード」として日本にも輸入されることになったのだろう。
フォークロアとして自然な進化を遂げたといっても過言ではない。
三本足の女と会う方法
“三本足の女”を呼び出す方法が、まことしやかに伝えられている。
深夜、車でナッシュロードへ入り、ヘッドライトを消してクラクションを三回鳴らすと、どこからともなく姿を現すという。
こうした呼び出しの手順は、アメリカに限らず、日本をはじめ世界各地で見られる典型的なパターンだ。
出現時すると、車の屋根やフロントドアを叩く、あるいは体当たりの衝撃を感じたとする報告が複数ある。しかし、人間への直接的な危害は確認されておらず、多くは乗員が一時的に恐怖でパニック状態に陥る程度。
日本であれば、呼び出された怪異が自宅までつきまとい祟る、という筋書きになりがちだが、三本足の女にはそのような執念はない。
代わりに特徴的なのは、「レースを仕掛ける」という点である。
呼び出された車を追いかけ、並走しながら体当たりを繰り返すという。
勝った場合や負けた場合の具体的な影響については明確な記録はないが、いずれも直接的な祟りや長期的被害には至らず、車体の損傷や恐怖の体験で終わるとされている。
三本足の女って何だったんだろう
深夜に若い連中が車で集まり、騒ぐのがティーンエイジャーの楽しみの一つだった土地柄である以上、時の行われる度胸試しから怪異が生まれる素地は十分ある。
ホラー映画や心霊番組の影響で“脚が一本増える”というわかりやすい特徴が付与され、脚の由来についても好き勝手に脚色されていった。
「本当に出た」、「屋根を叩かれた」という体験談が Reddit などで散見されるが、これがまたどれも曖昧で、肝試し帰りのテンションそのままの語り口ばかりで、証言としての価値はお察し。
とはいえ、完全に嘘と切り捨てるのも早計で、こういう伝承は「信じて語る人がいる」というだけで文化的な実体を持ち始めた。
そこで、この噂話はおそらくミシシッピ州のサブカルチャーが育んだジョークであろうと推測する。
理由は、ジョークであると感じるほど、怪異の存在感から恐怖が欠落している。
真っ先に目に刺さるのが、ゲーム性の方が強いという点だ。
本来なら祟りや死の気配を背負うはずだが、この伝説はそんなものより「呼び出し儀式をやって、車で逃げるか追われるか」というノリが前に出ている。
車文化と肝試し文化が合体して生まれた、実にアメリカ地方都市らしい“夜遊びコンテンツ”になっているわけだ。
もっと言えば、これは「恐怖の物語」ではなく「参加型の娯楽」なのだろう。だからこそ生き残り、形を変え、21世紀になっても語られ続けているのだ。
それにしても、「三本足の女」はなんとも不憫である。一方的に呼び出され、動車レースの相手にされて終わる。
これでは畏れもへったくれも、あったものではない。
ある意味、アメリカらしいとも思える。
ドラマ「三本足の女」
最後に「三本足の女」を、再現ドラマ風にまとめてみた。
コロンバス市周辺に暮らす若者たち、深夜、車に乗りあわせて、「三本足の女」の噂を確かめにナッシュロードへと向かう。車は幹線道路から離れてナッシュロードに入ると、ヘッドライトの明かりだけを頼りに暫く砂利道を走る。
そうしてナッシュロードの適当な場所に車を停める。
「さあ、ヤツを呼び出すぞ」
「ああ、いいぞ」
「頼むわ」
ドライバーは同乗している友人たちに声をかけた。
ヘッドライトを消す。
クラクションを三回鳴らす。
ナッシュロードの暗闇のなか、誰もが黙って車の中で過ごしている。
ドスッドスッ!ドスッ!
何かが車の屋根に乗っかるか、叩くような音が聞こえた。
「来やがったぞ!」
車内は色めきたった。
この音こそ、「三本足の女」を呼び出すことに成功した証だ。
「三本足の女」は、その名のとおり、何者かから、もぎ取った足を自身の身体に縫い付け、朽ち果てた白いワンピースを着て、泥まみれになった顔と忌々しい眼つきをし車の前に立ちはだかった。
「三本足の女」は不意に呼び出されて安息を乱されることは不快に感じるらしい。
車の周囲を徘徊し、素手でボンネットを叩いたりはしても、車の中にまで入り込んで若者を殺すような行動に及ばない。
その後はどうするのかといえば。
「さあ行くぞ!」
ドライバーは、一気にアクセルを踏みこむ。
車は急発進、呼び出した「三本足の女」を置いてきぼりにして一路、ナッシュロードの出口を目指して突っ走り始めた。
大した執念のない「三本足の女」であるが、逃走する車をボーっと見送るような真似はしない。
車を追いかけるべく猛スピードで走り出す。
ナッシュロードのゴール地点を目指して、車と「三本足の女」のレースが始まった。
疾走する車に追いつくほどの速度で走る車と並走し、車に体当たりを仕掛けてくる。
車の扉の外から、鈍い音がした。
「何の音だ!?」
「やっぱり三本足の女が体当たりしてきやがった!」
「テメエ、ちゃんと逃げ切れよ!」
「まかしとけって!」
ドライバーは「三本足の女」を横目に見つつ、ハンドルやアクセルを操って「三本足の女」の体当たりをかわしながら、ナッシュロードの終点にまで辿り着いた。
「出口だぁ!あばよ化物ぉ!!」
そうドライバーや同乗者たちが叫ぶと、車はナッシュロードから出て別の道路へとハンドルを切った。
車に乗っている全員が振り向くと、遠ざかるナッシュロードの出入口に追跡をやめた「三本足の女」が突っ立って、遠ざかる車を見送った。
「三本足の女」は車を、ナッシュロードから追い出してしまえば満足してしまうのだ。
若者たちは怪現象とレースで感じたスリルに満足して帰っていく。
乗っていた若者たちの家に「三本足の女」が現れた、といったエピローグは一切ない。
車に体当たりをした跡は残り修理費用はかかるが、霊障の類を起こさない。
※画像はイメージです。


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