自転車で出かけるのが習慣になって久しい。
OH市に移り住み早や12年を迎え、気の向くままに走っていると、いろんなものが見えてくる。
降り続いていた雨が久々に上がり、日差しが眩しい気持ちのいい休日の朝。
朝食を済ませ、そそくさと身支度を整えると携帯を持ち、家内に「ちょっと出掛けてくる」と言い残して家を出た。
サイクリング
T川沿いにサイクリングコースをひたすら遡っていく。
空気も澄んでいてサイクリング日和、ついつい調子にのって遠くまで来てしまい、もうそろそろ帰宅しようと思った時には日が暮れかけていた。
スマホで位置を確認すると、山超えた方が近い事が解った。
戻った道を引き返すのは、距離的にちょっときついなぁと感じていたのでラッキーだ。
ひたすら走っていると、前方に大きくまだ新しいようなトンネルが現れた。
ここを超えれば自宅付近なのだがトンネル内に歩道はなく、交通量が多く車が勢いよく出入りしている。
これを抜けて行くのは難しい、そう思いながらスマホで地図を見ると、横に旧道があるのをみつけた。
「助かった、これを抜ければ楽になる」
旧道を抜ける
トンネル手前の左脇にある細い脇道へとハンドルを切ると、一応舗装はされているが殆ど交通はないようで、草木が茂り閑散としている。まさに、昨今騒がれている熊でも出てきそうな雰囲気。
すっかり日が暮れて辺りは真っ暗、自転車のライトだけを頼りに進むと前方に見えてきたのは、古くて既につかわれていないトンネル。
「ウッソだろー」やな感じがしまして、一瞬、引き返そうとしたのだが、体力がすでに限界に近く、たとえ戻ってたとしても家まで帰り着くかは解らない。
意を決してトンネルの中に足を踏み入れると、気のせいか空気がとても冷たくて生臭い。
恐怖心から長居は無用とがむしゃらにペダルを漕いでトンネルを抜け出した。不気味だが、ただのトンネル、ただ、それだけ。
荒れた道を暫く進むと舗装された道に突き当たり、どうやら通るのを止めた新しいトンネルの反対側に出た。
正しい選択だったのか?
ほっとして家路を急ごうとした時だった。
一台の自転車がトンネルから出てきたと思うと、追い抜かしていこうとしたトラックに引っかかり、乗っていた男性が跳ね飛ばされた。
恐ろしくなって、全速力でその場を離れた。
ライトに照らされた瞬間、血まみれになって道端にうずくまる男性の顔が見え、なんとなく自分に似ていると思った。
もし旧道を通っていなければ、私が犠牲者になっていたと思ったからなのだろう。
家に着いたのは、それから30分後だった。
ぐったりと疲れた身体を玄関で支えながら靴を脱いでいると、家内が顔を出してこう言った。
「スマホは見つかった?」
言葉の意味がわからず固まる。
家内は少し不機嫌そうに続けた。
「スマホを落としたから探しにいくって出てったじゃない?」
訳がわからず、ポケットに手を入れると、スマホはちゃんとある。
ただし画面はひび割れ、真っ黒で反応しなかった。
妻が見た、さっき帰ってきた「私」は誰だ?
今、ここにいる「私」は本当に私なのか?
※画像はイメージです。


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