オカルト療法やサプリメントや健康食品の中には、科学的な裏付けがないのに、効果を実感する人が出て来る事がある。
これを批判、検証する時にしばしば語られるのが偽薬(プラセボ/プラシーボ)効果で、ニセ薬でも信じていれば効果が出る、という心理作用である。
一定の合理性がある理屈なのだが「全てがそれ」と断じるのは、「全てプラズマです」と断じてしまうのと同様、短絡的である。
そこまでロマンティックな理論ではない。
我々は、偽薬効果と信じ込み、本当に効果のあるオカルトを、見逃していないだろうか?
偽薬効果とは
まず、改めて偽薬効果について理解を深めよう。
名前だけ知っていて、実態と離れた理解をしているというのは、よくある話だ。
偽薬すなわち「プラセボ(placebo)」の語源は、旧約聖書にある。
詩篇16篇9節の「placebo domino in gregione vivorum(生ける者の地で、主を喜ばせよう)」がそれである。
ラテン語で「domino」が「主」、「in gregione vivorum」が「生ける者の地で」なので、「placebo(プラシーボ)」は「喜ばせる」という意味である。
ここから転じて、18世紀頃にプラセボが「(慰め目的の)ありふれた方法や薬」という意味で使われ始めた。
この場合のプラセボは必ずしもニセ薬やニセ医術を意味しないが「(根治できない藪医者が施す)気休め程度の処置」という、侮蔑的なニュアンスが強い。
落語の小咄に、何にでも葛根湯を処方する「葛根湯医」というのがいるが、これに近い。
このようにして使われていたプラセボに対し、有効性が調査され始めたのは18世紀頃からである。
18世紀末、イギリス人医師ジョン・ヘイガースは、プラセボとして使われていた治療器具「パーキンス・トラクター」の効果について研究し「効果無し」と結論付けた。
逆に19〜20世紀のフランス人薬剤師エミール・クーエは、薬剤に関しては有効なプラセボ効果があると主張し『意識的な自己暗示による自己統制』を出版している。
「偽薬効果」「プラセボ効果」を語句として定義したのはT.C.グレイブスの1920年の論文とされている。
これを一般に広めたのはヘンリー・K・ビーチャーによる1955年の論文「The Powerful Placebo(強力なプラセボ)」である。
ビーチャーの論文で語られる実験によれば、プラセボを処方した群も「1/3程度」の割合で効果が出たという。
そして、プラセボは気休めの範囲を超え、身体的な効果もあるものと論じている。

偽薬効果の程度
ビーチャーの研究では1/3すなわち33パーセントの割合で効果が出たとされている。
2010年のアメリカの研究では、過敏性大腸炎に対する処方では、60パーセントの効果が出ている。
手術後の痛みに関しては、モルヒネとの比較で77パーセントの効果が見られたという。
抗炎症作用に関しては、50パーセントほどの効果があったという。
2015年10月「Nature」の論文では、鎮痛剤の効果は、(その患者に馴染みのない)新薬と同等の効果が出る事があるという。
そろそろ何となく感づいたろうか。
これらのプラセボが効果をもたらす疾病は、かなりの割合で痛み(主観)や心因性の要素が強いものが含まれる。
そしてその状況でも、効果は50パーセント前後に留まる。
逆に考えれば、この割合を超えて「効果」の出る偽薬は、その理論がオカルトだったとしても、実際の効能を持っている可能性がある、という事である。

曖昧模糊を受け容れる
ここで勘違いしてはいけないのは「可能性がある」事は「立証」ではないという事だ。
あるオカルト療法を受けた患者群が、プラセボ効果を超えた確率で改善された時、それはあくまでデータの1つだ。
健康というのは、非常に複雑なものである。
オカルト療法を受けるための何らかの他の要素、それに至る道筋のどこかに、病気改善のキーが隠れている可能性は常にある。
健康目当てにオカルト商品を使う時、しばしば起こり得るのは、これを上手く使おうとして摂取水分量が増えたり、食事のリズムが整ったりという、他の効果である。
偽薬効果を覆す結果が見えたからといって、結論を急いではいけない。
有効だったというデータを集め、1つ1つ反証の可能性を潰していき、その結果ようやく効果のあるオカルト療法として認められるのだ。
その途中が辛いのであればオカルト療法であると分かった上で、それを使うと良い。オカルトは元より、未知の闇を照らし、恐れる心を慰めるものだ。そして、そのような曖昧を埋めるだけのオカルト療法を、さも科学的に立証されたものかのように勧める輩を、決して信じてはいけない。
ハッキリしない事を断言するのは、詐欺師か、さもなければ作家ばかりだ。
そのような輩の話は、話半分より更に割り引いて聞かなければならない。
※画像はイメージです。


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