マッサージ店を営んでいると、さまざまなお客様がいらっしゃいます・・・。
年末の寒い冬の夜、閉店時間が近づき、私は「今日もよく働いたな」と一息ついていました。
そんなとき、店の電話が鳴りました。
「これから施術をお願いできますか?」
電話の主は男性でした。
もうすぐ閉店ですが、出てしまった以上、断るのも気まずい。
「大丈夫です。どのくらいでいらっしゃいますか?」と尋ねると、「今駅だから、タクシーで20分くらい」と軽い調子で返されました。
私は「ではお待ちしております」と返事をし、準備を整えて待つことにしました。
遅れて現れた“厄介な客”
約束の20分が過ぎ、30分が過ぎても彼は来ません。
「来ないじゃない」と少し苛立ち、さらに1時間ほど待ったころ、ようやくドアが開きました。
入ってきたのは、小柄で派手なスーツを着た男性で明らかに酔っている様子。
「お客様、申し訳ありませんが、お酒が入っている状態では施術はお断りしています」
そう伝えたものの、男性は「大丈夫、慣れてるから。マッサージで頼むね」と当然のように言ってきました。
不安はありましたが断る気力もなく、カウンセリングシートを渡すと、彼は名前だけを書き、その他の項目は「めんどくさいから」と未記入。
私は「もうこれ以上、面倒事が起きませんように」と祈る気持ちで、施術室に案内しました。
「準備ができたら呼んでくださいね」
そう伝え、いざ施術を始めようとしたとき・・・彼の体にびっしりと入った刺青に気づきました。
「うちの店、刺青のある方はお断りって書いてあるのに」
内心で警鐘が鳴り響きましたが、もう遅い、この状態では断る事なんて絶対無理。
起こる異変
施術を始めると、なにかの視線を感じます。
他のスタッフはもう帰ってしまったので、店の中には私と彼以外はいません。
でも確かに、だれかに見られているように思える。それと同時に脇腹がジワジワと痛みだしました。
そんな状況ですが、早く済ませたい気持ちのほうが強く、痛みに耐えながら施術と進めていくのですが、今度は頭がズキズキと痛みだす始末。
脂汗が出てきて今にも倒れてしまいそう・・・でも、なんとか終わらせて帰る。
自分でも驚くほどの強い意志で頑張っている。
頭の痛みがピークを迎えたそのとき、なぜか分からないけど、「シュウジ」という言葉が口を突いて出た。
その瞬間、彼の顔色が変わりました。
酔っていたはずの目が覚めたように見開かれ、驚いた表情を浮かべました。
「オイ!なんでその名前を知っているんだ?」
彼はベットから飛び起き、私の顔を睨めつけたと思うと、私の方を指さしながら驚き・・・というよりは、仰天してベットから転げ落ちたのでした。
シュウジ
それから30分ぐらいして、彼は落ち着き、沈黙のあと、彼はため息をついた後に話を始めました。
いろいろと余計な部分が長く要約すると、「シュウジ」というのは、去年の今頃に腹を刺されて亡くなった舎弟の名前。
知るはずもない私がその名を呟いたので驚いて起き上がってみると、亡くなったはずの「シュウジ」が私の背後に立っていたように見えた・・・というのです。
その口調は、先ほどまでの軽さとは違い、重く沈んでいる。
彼は舎弟のことをとても大切にしていたようで、話すたびに目に涙を浮かべていました。
もしかしたら、舎弟の人は亡くなってもなお、彼を慕っていたのかもしれないと思い、私は提案しました。
「もしよければ、供養を考えてみてください。彼のためにも、あなたのためにもなると思います」
彼はうつむいたまま、ぽつりと「そうか、あいつ、まだ俺のそばにいるんだな」と言った。
霊も人も怖い夜
施術が終わると彼は代金を支払い、「次回も予約したい」と言ってきましたが、私は「すでに予約が埋まっている」と断りました。
次の日、スタッフに昨晩の事を話すと幽霊よりもヤクザの方がヤバいとなり、なにかあった時の為に防犯カメラの記録を残しておこうと確認したのですが。
施術している映像の私の背後に、だれか一人映り込んで見えるのです。
私にとって「二つの怖さ」を感じた一夜が終わりました。
ひとつは、霊の存在。
もうひとつは、生きている人間の持つ、理不尽で予測できない恐ろしさ。
この日以来、改めて思いました。
「閉店ギリギリにやってくる客は断ろう」


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