皆さんはロシアのスラヴ民話に登場する魔女バーバ・ヤガーをご存じですか?
ロシアで有名な童話『竜王と賢女ワシリーサ』に活躍するバーバ・ヤガーは、森の奥の奇妙な家に独りで住み、子どをも取った食べる恐怖の対象としても知られています。
伝説上の悪役にとどまらず、善良な人々に知恵を貸すことも多く、善悪の二面性に興味が尽きません。今回はそんなバーバ・ヤガーのルーツと正体に迫っていきたいと思います。
バーバ・ヤガーはスラヴ民話発祥だった
バーバ・ヤガーの初出はスラヴ神話。スラヴ神話とはロシア周辺に在住するスラヴ民族の間で語り継がれてきた民話で、地域によって様々なバリエーションがありました。文字を持たないスラヴ民族は先祖代々口伝でこれを広めてきたものの、9世紀から12世紀にかけてキリスト教による激しい弾圧が始まり、徐々に駆逐されていきます。
スラヴ神話の主神たちがキリスト教徒によって滅ぼされた後も、民間信仰の対象だった神や魔物は細々と生き残っていました。彼等は「小神格(ディイ・ミノーレス)」と称され、スラヴの人々の生活と深く結び付いています。
有名どころを挙げるなら水の精ルサルカ。
ルサルカの起源は水の事故で死んだ女性、または洗礼を受ける前に死んだ赤ん坊の霊とされ、水辺に出現すると伝えられています。南ロシアの民話に現れるルサルカは長い緑色の髪をした美しい娘で、湖沼の畔に青白い裸身をさらしていたそうです。
片や北ロシアでは緑のギョロ目を光らせ、巨大な乳房を振り回す邪悪な怪女とされており、随分イメージが異なっているのがわかります。
バーバ・ヤガーは臼で移動する
バーバ・ヤガーの日本語訳は山姥・鬼婆・妖婆など。民話の挿絵では骨と皮ばかりに痩せこけた姿で描かれ、両足は骨が剥き出しで、鶏の足の上に建った家に住んでいます。
さらには家の内外を大量の骸骨で飾り立てていると来て、魔女の誹りを免れません。移動時は細長い臼に跨り、右手に持った杵を振って操縦するのだそうです。左手の箒は臼の底が地面を擦った痕跡を消す為の物で、実に用意周到と言えます。
物語の悪役として語られがちなバーバ・ヤガーですが、ごく稀に森に迷い込んだ子供たちを助け、正しい道を教えるパターンもあります。しかしそれには条件があり、バーバ・ヤガーに出会った主人公が礼儀正しさや善良さを示すこと。悪党には因果応報の末路が待っています。失礼な振る舞いは厳禁です。
バーバ・ヤガーとヘンゼルとグレーテルの魔女の類似性
筆者はグリム童話の一篇、『ヘンゼルとグレーテル』に登場するお菓子の家の魔女のルーツが、バーバ・ヤガーだと考察します。彼女たちに共通項が多いことにお気付きでしょうか?
大前提として、お菓子の家の魔女がヘンゼルグレーテルを捕らえたのは彼等が不法侵入したせい。当然家を構成するお菓子を勝手に食い荒らした罪状も加わります。もしヘンゼルとグレーテルが事前にきちんと許可をとっていたら、魔女の対応もまた違ったのではないでしょうか?
一方バーバ・ヤガーは、礼儀知らずには無体な仕打ちを以て報います。
キリスト教に異教として弾圧されたバーバ・ヤガーの話が欧州に伝わり、広く分布していく中でグリム童話の悪役として取り込まれ、『ヘンゼルとグレーテル』の魔女と習合するのは十分ありそうなことに思えます。
featured image:Ivan Bilibin, Public domain, via Wikimedia Commons


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