2024年現在の世界の拳銃市場の傾向は、NATO規格でもある9mm×19mm弾、所謂9mmパラベラム弾を使用するモデルが引き続き主流を占めており、この傾向が見直される動きは一部の特殊な用途を除いては考えづらい。
例えば世界最大の戦力を有するアメリカ軍は、1985年から9mm×19mm弾を使用するベレッタM9をそれまでの45ACP弾のM1911A1に替えて正式拳銃に採用、更に2017年には同弾を使用するSIG SAUER M17/M18をその後継に採用した。
日本の陸上自衛隊でも1982年にはM1911A1に替えてSIG SAUER P220を9mm拳銃の名称で採用、9mm×19mm弾の使用に移行し、2020年からはH&K VP9を9mm拳銃SFP9として調達、そのトレンドを継続させている。
しかしアメリカは1911年から1985年までの長きに渡り、軍の正式拳銃の座に据えたM1911シリーズに今も尚、一部で高い評価を下しており、その理由は9mm×19mm弾よりも1発のストッピング・パワーに勝る45ACP弾によるところが大きい。
こうした1発のストッピング・パワーに対する要求から、S&W社は9mm×19mm弾と45ACP弾の中間を狙った40S&W弾を1990年にリリース、同弾仕様をラインナップに加える事が昨今の拳銃の潮流にもなっていた。
しかし9mm×19mm弾を改良するする事で威力を増加させる事が成功すると、世の中心はやはり軍・各種の法執行機関・民間を問わず9mm×19mm弾が標準と言う形に収まりつつあるように傍目には感じられる。
しかし一部で根強い支持を得ている45ACP弾が、アメリカ市場から駆逐される事は今後も暫くはないと思われ、ヨーロッパの銃火器メーカーもそれに対応する機種の製造を継続しているのが現状である。
そうしたニーズに対応すべく、様々な分野の銃火器でユニークな製品を世に送り出しているドイツのH&K社が製造・開発を行った45ACP弾仕様の拳銃にHK45があり、2006年以降、市場に投入されている。
H&K HK45の仕様
オリジナルのH&K HK45は全長194mm、銃身長115mm、重量785g、オーソドックスな外装式ハンマーのダブル・アクション方式で、ティルトバレル式のショート・リコイル機構を持ち、45ACP弾を弾倉に10発、薬室に1発の装弾数を備える。
このオリジナルのH&K HK45を切り詰めてコンパクト化したものはHK45Cと呼称され、全長183mm、銃身長100mm、重量717g、機構は同様で、45ACP弾を弾倉に8発、薬室に1発の装弾数を備える形となっている。
このH&K HK45及びHK45Cに対し、アメリカの45口径オートの雄・M1911は全長216mm、銃身長127mm、重量1,130g、外装式ハンマーのシングル・アクション方式で、ティルトバレル式のショート・リコイル機構で、45ACP弾を弾倉に7発、薬室に1発の装弾数だった。
コンパクト化されたHK45CであってもM1911を凌ぐファイア・パワーを獲得している点は、流石に1世紀近い時間の経過を如実に感じさせ、45ACP弾を使用する拳銃とは思えない程、取り回しが容易になった事が推察される。
H&K HK45はアメリカ特殊作戦軍・SOCOMが2005年に呼びかけたベレッタM9を更新する為の選考向けに開発された拳銃であり、既に1985年のベレッタM9の採用から20年が経過し、9mm×19mm弾に対し45ACP弾の再評価が進む中で生み出された。
ベレッタM9の採用以後のアメリカ軍は、湾岸戦争やイラク戦争、アフガニスタンと言った中東地域の紛争に介入したが、特殊部隊での使用状況においては9mm×19mm弾より、45ACP弾の優位性を支持する声が高かったと言われている。
H&K HK45の開発にあたってはアメリカ陸軍の特殊部隊として名高いデルタフォースの隊員OBのアドバイスを仰いだが、アメリカ特殊作戦軍・SOCOMは翌2006年には選考自体を諸事情により取り止めた。
これによりH&K HK45のシリーズは、本来の目的としていたアメリカ特殊作戦軍・SOCOMの正式拳銃としての採用は叶わなかったが、現在も各種の軍隊、法執行機関、アメリカの民間需要に向けて製造は継続されている。
以後もH&K HK45には、サプレッサーの装着を前提とした延伸されたバレルとその専用のハイプロファイルサイトを備えたHK45T、同モデルのコンパクト版のHK45CTがラインナップに追加されて販売されている。
G3からサブマシンガンのMP5など
ドイツのH&K社と言えば第二次世界大戦後の1949年に設立が行われた企業であるが、それまで同国の主要な銃火器製造企業であったモーゼル社に勤務していた3人の技術者が創業、最初はミシンなどの工業機器を手掛けていた。
しかし1956年に当時の西ドイツにおいて、旧ソ連陣営とアメリカ陣営との冷戦構造が顕在化した事で再軍備が始まり、ドイツ連邦軍が組織された事を受けて軍用の銃火器を製造する企業へと変貌を遂げた。
H&K社はドイツ連邦軍が1964年に正式採用したバトル・ライフルG3において、ローラー・ディレイド・ブローバックを採用、一躍西側諸国を代表する銃火器製造企業としてその名を世界に知らしめた。
以後もH&K社は其れ迄オープン・ボルト・ファイアリングが主流であったサブマシンガンに対して、バトル・ライフルG3と同様のローラー・ディレイド・ブローバックを採用したクローズド・ボルト・ファイアリングのMP5を世に送りだす。
MP5は先ず連邦国境警備隊に1966年に正式採用されたが、従来の安価なサブマシンガンに比べて高額であった事から対外的な普及は遅れたが、1977年のルフトハンザ航空ハイジャック事件でGSG-9が鎮圧に使用した事で一躍脚光を浴びる。
以後は精密射撃が可能なサブマシンガンとして、その分野の銃火器の運用用途の変更というパラダイム・シフトをもたらし、世界各国の特殊部隊の標準装備として半世紀以上に渡り不動の地位を築いた。
現在はボディ・アーマーの普及から9mm×19mm弾を使用するMP5の威力不足は否めなくなっているが、H&K社では貫通力の高い4.6x30mmを使用するPDWとしてMP7を投入、こちらも世界的に普及の兆しを見せ始めている。
H&K社 拳銃の展開
前述したようにバトル・ライフルのG3、サブマシンガンのMP5、PDWのMP7などで世界的な評価を確立した感があるH&K社だが、殊に拳銃と言う分野に限定して見ると、そこまで支配的な市場の獲得には至っていない感もある。
H&K社は拳銃の分野では1968年にかつてのモーゼルHScをべ―スとした小型拳銃を開発、バレルとマガジンを交換するモジュラー形式を採用、380ACP弾・32ACP弾・25ACP弾・22LR弾の4種類に対応するHK4をリリースした。
続いてH&K社は1969年には9mm×19mm弾及び45ACP弾を使用する大型拳銃P9をリリース、拳銃でありながらG3やMP5と同様のローラー・ディレイド・ブローバックを採用、コストは高いが命中精度には優れていた。
P9はハンマー内蔵式のシングル・アクション形式で発売されたが、後に1973年からはダブル・アクション機構を加えたP9Sへと進化、これにサプレッサーを装着したモデルはアメリカ海軍の特殊部隊でも導入された。
1976年にH&K社はガス・ディレード・ブローバックでダブル・アアクション、ストライカー方式のP7が西ドイツ警察の正式拳銃に採用され、グリップ・セフティの一種である独特のスクイズ・コッカーでよく知られる。
P7はベレッタM9が選定された際のアメリカ軍のトライアルにも参加したが、独特の形式も災いしたのか採用には至らず、以後H&K社は1993年に開発したUSPからはポリマーフレームである点を除けばオーソドックスな仕様となった。
USPはティルト・バレル方式のショート・リコイル、ダブル・アクション、外装式ハンマーと言う造りで、ドイツ連邦軍を始めアメリカの法執行機関等でも採用され、商業的にに大きな成功を収めた。
このUPSでの成功からH&K社は以後は同銃をベースに、P2000、P30等の改良・発展型を開発し、 HK45もこれらの延長線上の拳銃として同様のコンセプトの元で開発されたと言って良いだろう。
H&K HK45 アメリカの拳銃市場の足跡
H&K HK45のベースともなったUSPだが同銃は9x19mm弾を始め、40S&W弾、45ACP弾、357SIG弾(コンパクトモデルのみ)があり、続くP2000も9x19mm弾、40S&W弾、357SIG弾に対応、P30でも9x19mm弾、40S&W弾が用意された。
一時期は9x19mm弾と45ACP弾の双方の利点を兼ね備えた40S&W弾が、アメリカ市場では主流となる様相も垣間見えたが、9x19mm弾の強装弾の登場でその傾向にも陰りが見えつつあるようにも感じられる。
何れにせよH&K HK45で使用させる45ACP弾はほぼアメリカの市場のみで好まれていると思えるのだが、未だそのストッピング・パワー故に根強い支持があり、これに対応する拳銃もまだ暫く開発され続けるのだろう。
featured image:Heckler & Koch, Public domain, via Wikimedia Commons


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