『ぼくらの』は鬱アニメ、鬱漫画の代表作として必ず挙げられる作品。
ご存知の方も多いだろう。だが、今回ご紹介するのは『ぼくらの』ではない。
『ぼくらの』と同じ作者、同じ掲載誌で連載され、アニメ化もされた漫画作品『なるたる』(著: 鬼頭 莫宏)だ。
このタイトルを聞いて「あっ……」と思った方はご明察。
この『なるたる』、『ぼくらの』と同等かそれ以上に陰惨で救いようのないストーリーが展開される正真正銘のド鬱漫画。2000年代を彩った鬱漫画・鬱アニメの中でも異彩を放つこちらの漫画、今日はそのダークでやるせない世界の魅力に迫ってみよう。
平成最凶の鬱漫画?『なるたる』って?
さて、今回ご紹介する漫画『なるたる』は1998年から2003年まで「月刊アフタヌーン」に掲載された漫画作品。作者は鬼頭莫宏。
ご存知『ぼくらの』の作者でもある。そんな『なるたる』。
ものすごくざっくりと内容を説明すると、人智を超えた力を発揮する「竜の子」と彼らと接触した少年少女たちをめぐるS F冒険活劇だ。
そんな『なるたる』をタイトルで検索してみると、必ず候補に上がるのが「なるたる 鬱」など不穏すぎるワード。
ちょっと・・・いやかなり少年少女のSF冒険活劇からは遠い言葉たちだ。コミックの表紙もどこか不穏でシリアスな(これはアニメ版だが)『ぼくらの』のキービジュアルと違って、まあ一巻の時点では鬱な要素はない。じゃあ『なるたる』って鬱漫画じゃないの?と思われるかもしれない。残念だがそれは違う。
断言してしまうが『なるたる』は鬱漫画である。いや、鬱漫画というか陰惨で陰鬱な漫画と言った方が正しいか。まあ、とにかく明るい漫画ではない。そして、これはシンプルに注意してほしいのだが、本作には鬱展開以前に、かなり残酷な描写や胸が悪くなる展開が頻出する。
2025年の倫理観では眉をひそめられてしまいかねないストーリー展開も多々あり、茶化しや釣りではなく閲覧注意な作品でもある。心苦しいが、そうした表現に敏感だったり苦手な人は読まないことをおすすめしたい。
倫理観とストーリー
漫画を紹介する記事で本当はこんなことは書きたくないのだが、本作のそうした描写は作品のクォリティが高いこともあって、読むと「食らって」しまうのだ。普段はこうしたことは書かないが、今回あえて書かせてもらった。
許してほしい。さて、ここから『なるたる』の陰惨ポイントを語る前にもう少し作品の内容を見ていこう。
舞台は現代日本。ごくごく普通の小学生玉依シイナは、夏休みに訪れた田舎で星型をした奇妙な生き物と出会う。それに「ホシ丸」と名づけたシイナは彼を連れ帰り行動を共にするようになるが、それこそが地球の運命を破滅に導く物語の始まりだったーー。本作の導入部を説明するとだいたいこんな感じ。まあ、種明かしをしてしまうと、ホシ丸の正体は太古より地球に暮らしていた超自然的な生物、竜の子(竜骸)。
地球上のあらゆる生物を上回る超常的な力を持つが、単体では活動できない竜の子たちは、対となった子どもと「リンク」することで真の力を得る。別名である「竜骸」の呼び名も彼らが単体では無力で、活動にはリンク者が必要であるところから来ているというわけ。そんな竜の子と運命的な出会いをしたシイナ。彼女は望むと望まざるとに関わらず、竜の子をめぐる様々な思惑に巻き起まれ、最終的には地球の命運を左右する決断を迫られるまで追い込まれていく。そのストーリーの加速ぶりはかなりぶっとんでいる。最初は「リンク者」となった少年少女同士の諍いレベルだったものが、最終的には大人や国すらも巻き起こんだ戦いに発展。国や自衛隊、米軍までも出動する騒動に発展。
シイナとホシ丸も命懸けの決断をしなければならない場面も増えてくる。ちなみに、竜の子と人間たちの戦いが大きくなる中で、人間が操る戦闘機なども登場するのだが、そちらの描写がなかなかよく描けていて素晴らしい。鬱漫画として有名な本作だが、兵器などの描写も手が込んでいて、そのあたりミリタリー作品としても秀逸。気になる方はそのあたりにも注目してほしいところだ。少し話がそれたが、これが『なるたる』のざっくりしたあらすじである。
一巻のほがらかな表紙からはあまり想像しづらい壮大なストーリーだが、そもそも少年少女の冒険譚とはそういうもの。刺激的なストーリーを求める読者のため、登場人物たちの成長のために過酷な展開となることはままある。だが、『なるたる』の陰惨さや陰鬱さはそういった「あるある」のレベルではない。次のパートではそんな『なるたる』の陰鬱ポイントをさらに掘り下げてみよう。
少年少女と竜が紡ぐSがなぜ最凶鬱漫画に?
漫画『なるたる』の鬱ポイント、ネットを調べてみるとわたしが説明しなくともザクザクでてくるので、こちらで細かく説明するのはやめておくが、あえてその陰鬱さ、陰惨さについて表現するのならば「見通しのつかなさ」「選択の結果としての鬱」と言えるのではないかと思う。せっかくなので同じ作者の作品でもあり、冒頭でも触れた『ぼくらの』と比較してみよう。『ぼくらの』は自らの生命を動力源に地球の命運をかけてロボットに乗って戦う少年少女の運命を描いた漫画作品だ。この作品の最大の鬱要素は、戦いに勝っても負けても搭乗者は死ぬというところ。
いわば作品世界の残酷さのレギュレーションは序盤で公開されており、そうした過酷すぎる運命を提示された時、登場人物たちがどのように行動するかがこの作品の一番の見どころである。一方、『なるたる』はそうした作品世界の残酷さや過酷さのレギュレーション(世界のルール)みたいなものは、なかなか明らかにされない。というか本作にはレギュレーション自体がない。異形の存在「竜の子」がこの作品の重要なファクターではあるのだが、彼らそのものが登場人物たちに破滅を運んでくるわけではない。
「竜の子」に関わったキャラクターたちの中に生まれた様々な気持ちーー全能感・怒り・悲しみ・喜び・葛藤ーーそれらがトリガーとなって彼らの行動がドミノのように連鎖し、最終的に陰惨すぎる結末や残酷な運命を引き起こしてしまうのである。「竜の子」はあくまで器。どんな強大な力をもっていても、それをどう使うかはリンク者(人間)次第。「こうなったのは誰のせいでもないが、竜の子の力を使ったおまえのせいでもあるよね」とでも言いたげな「突き放した」厳しさを、『なるたる』から感じるのは私だけだろうか。
『なるたる』
この感情と行動のドミノへの厳しい視線こそが『なるたる』最大の鬱ポイントであり根幹に流れる強い意識だ。テーマやメッセージ性と言ってもいい。特に最終回で登場するあるセリフは圧感。本作は序盤でも述べたとおり、残酷な表現がガンガンでてくるので万人に勧められる作品ではない。
だが、この鬱表現の本質にある乾いた厳しさはぜひ一度体感してほしい作品でもある。強くは勧められないが、できることなら読んでほしい。『なるたる』はそんな作品と言えそうだ。
今回取り上げた『なるたる』は伝説の鬱作品の名に恥じず、「竜の子」を軸に目を背けたくなるような過酷なストーリーが展開される陰鬱・陰惨漫画だ。
だが、本作はただただ残酷な展開が続くだけの作品ではない。その根底にあるのは徹底した厳しさと圧倒されるような強い意志だ。けして万人に勧められるものではないが、ガッツのある人はぜひチャレンジしてみてはいかがだろうか。
(C) 鬼頭莫宏 講談社 / アフタヌーンコミックス


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