定年を迎え、長年勤めた会社を退職しました。
八王子郊外に中古の戸建てを購入し、妻と二人、静かな日々を過ごしています。
老後のモチベーションを保つため、気が向いたときにママチャリで近所をぶらつくのが、最近の小さな楽しみです。
ある日、YouTubeで「心霊スポット特集」を目にしました。
その中でも特に気になったのが「旧小峰トンネル」。曰くつきのトンネルで、強い霊気を感じる場所として有名らしい。
霊現象に特別な関心があるわけではありませんが、どこかへ出かける口実のようなものと、ちょっとした冒険気分と、怖いもの見たさが背中を押しました。
旧小峰トンネルとは
旧小峰トンネルは、八王子とあきる野を結ぶ都道38号の旧道にあります。
現在は新小峰トンネルの開通により通行止めとなり、旧道入口にはバリケードがあって、徒歩か自転車でしか行くことができません。
このトンネルで語られる霊現象の中には「手首のない幼女の幽霊を見た」という証言が多くあります。
それには1989年、宮崎勤による連続幼女殺害事件に関係し、逮捕後に宮崎はトンネル上にある小峰峠の山小屋に遺体を隠し「女児の腕を切断して焼いて食べた」と惨忍な供述をしたことから「幽霊が出る」という話が広まったようです。
ただし、旧小峰トンネルと事件との直接的な関係は、公式な記録には存在しておらず、噂の域を出ない話と見るべきでしょう。
ですが理由を知った私は、真相を確かめられないかとも思い、ますます行ってみなくなったのでした。
旧小峰トンネルへ
私は武蔵五日市からアプローチし、あきる野側から旧小峰トンネルを目指しました。
舗装はされているものの、旧道は荒れ放題。枯れ枝や落ち葉が散乱し、ママチャリを押して進むしかありません。
やがて前方に現れたのが、目的地の旧小峰トンネル。
真夏の正午過ぎなのに、あたりは木々が生い茂り薄暗く、人の気配もありません。
心霊系YouTuberが喜びそうな、いかにもな雰囲気。
少しだけ躊躇しながらも中へ足を踏み入れると、空気はひんやりと冷気なのか、霊気なのかを感じずにはいられません。
そこにポトリと何かが肩に落ちてきました。
反射的に手で抑えてみると、カマドウマのような気持ちの悪い虫。
すこし悲鳴を上げて、自転車に飛び乗り、一目散にトンネルを抜けました。
確かにひやっとさせられましたが、トンネルに入ってから抜けるまでの間、霊的な現象に遭遇するようなことはありません。
まあ普通はそんなものでしょうね。
怪異なのか?
その日の夜。床についた私の耳に、どこからともなく「キーン、キーン」という金属音が微かに聞こえてきました。
最初は気のせいかと思いましたが、翌晩もまた、同じ音が聞こえてきたのです。
老化で起こる耳鳴りとは雰囲気が違っていて、しかもその音は、少しずつ近づいてくるように思えるのです。
「おや?」と思い体を動かそうしても全く動かす事はできず、もがいている内に疲れて眠ってしまいました。
朝になって妻に話すと「それ、金縛りでしょ」と言われたのですが、いつの間にか眠ってしまったので、私は夢を見たのだと笑いながら言い返しました。
あれから三日目、夜になると金属音が、また聞こえてきます。
ただその日はそれだけではなく、「キーン」という音に混じって「コトンコトン」と不規則な振動を感じ、何かが、こちらに向かっている・・・そんな感じがしました。
目は開いたままで、体はまったく動きません。
そのうち上半身がゆっくりと持ち上がっていく、まるで誰かに引き上げられているかのように。
声を出そうとしても、息が漏れるばかりで言葉になりません。
「このままじゃ、まずい」と焦る中、必死に唸るように声を振り絞ると、ようやく「グッグェェッ」という音が喉から漏れました。
その瞬間、金縛りは解け、音も消え、部屋は元の静けさに戻ったのです。
私に起きた事
翌朝、妻に話すと「それ、幽体離脱だったんじゃない?」と真顔で言われました。
もしあのとき声を出せていなかったら・・・私は今ここにいなかったかもしれないと思っとゾッとします。
本当に幽体離脱だったのか?
それから、この一連の現象は旧小峰トンネルが関係していたのか?
確かなことはわかりませんが、その日のうちに再びトンネルへ向かい、入口に花束と線香を手向けてきました。
それ以来、不思議な音を聞くことも、金縛りに遭うこともありません。
私は、いまだに霊的な存在というものを信じてはいません。
けれども今回の出来事を経て、霊的な世界が存在したとしても、おかしくはないのかもしれない。
私たちが「常識」として受け入れている世界が、実は薄氷の上に成り立っているのではないか?
そんな事を思うようになったのでした。
※画像はイメージです。


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