あれは三月の終わりのことでした。
桜も咲ききらないまま、風ばかり冷たい日でした。
うちは、山の裏の旧道を、なんとなく歩いていました。
学校も休みで、暇でした。
しばらく歩くと、道の脇に古い祠がありました。
崩れかけていて、屋根には苔が生えていて、鳥居は斜めに傾いていました。
しめ縄は、途中でぶつんと切れて、風に揺れることもなく垂れていました。
その足元に、赤い実が落ちていました。
濡れたように艶々していて、見た瞬間、なぜか欲しくなって拾いました。
それからです。
夜になると、部屋の隅から「くっ、くっ、くっ」って笑うような声が聞こえるようになりました。
子供の頃、夏祭りで買ってもらって、壁に吊るして飾っていたいキツネのお麺が、風もないのに、こちらを向いている気がしました。
本当に向きが変わったのかはわかりません。でも、目が合ってしまった気がしました。
その日から、何度も、同じ夢を見るようになりました。
夢の中には白い狐が出てきます。
なにも言わず、うちのことを見てきます。
睨んでるわけでも、怒ってるわけでもない。ただ、静かに、ずっと、見ているんです。
こわくなって、ごめんなさいと思いました。
だから翌日、もしかしてあの祠かもしれないと祠に行って、お酒とお菓子を供えて、手を合わせました。
「うちが悪かった」と、何度も謝りました。
でも、それからです。
うちじゃなくて、うちの周りが壊れ始めました。
弟が夜中になると、狐みたいな声で「きゅうーん」と叫び、口がきけなくなったわけじゃないのに、それしかしゃべらなくなりました。
お母さんは、最初はふざけてるのかと思ってたけど、だんだん顔つきが変わってきて、目を合わせなくなりました。
近所の犬も毎朝すれ違ってたのに、尻尾を巻いて逃げるようになりました。
夢の中の狐は、今もうちの枕元に立っていて、ただじっと見てきます。
ただ、目だけが笑っています。
「ごめんなさい」と、うちは言いました。夢の中で。
そしたら狐は、「お前のこと、許さない」といいました。
※画像はイメージです。


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