夏がくる度に、思い出す若い頃のお話です。
中学2年の夏休み、同じ部活に所属する小学校からの仲良し5人組で、部活が午前で終わる日に海へ行こうという話になりました。
地元の三浦半島には海岸がいくつもあるけれど、ただ泳ぐだけじゃつまらない。そう思って、いつも遊ぶ砂浜ではなく、バスに乗って岩場の海岸に向かうことにしました。
そこは地元の人間には知られた海岸ですが、観光客にはまず来ないような場所で、ゴツゴツした岩場が広がっていて、海に突き出た高さ3メートルの岩から飛び込むのが定番。
素潜りや飛び込みができて、ちょっとした冒険気分が味わえる場所なのです。
海岸での出来事
海岸に着くと、それぞれが思い思いに遊び始め、気づけば15時を過ぎていました。
小腹が空いた私たちは、来る途中に買ってきた菓子パンを食べながらひと休み。
そんな中、早々と食べ終えた一人の友人が、飛び込みポイントへと身軽に駆け上がっていき、その姿を見て、私たちは「元気だな、あいつ」なんて笑いながら様子を眺めていました。
彼は岩場の上でこちらを向いて笑顔を見せると、バック宙で海に飛び込んでみせたのです。
この辺に住む子どもたちは、バック宙くらいは普通にできるし、泳ぎもみんな得意。ところが、ドボンと音がした後で上がってくる雰囲気が全くありません。
そのまま潜っているのかとも思ったのですが、体感で5分近くは海面に出てこないのはおかしい。
私達はお互いに顔を見合わせ、一斉に立ち上がって岩場まで様子を見に行きました。
すると海面から顔と両腕が現れ、ほっとしたのも束の間、ぶくぶくと海の中に沈んで行ったのです。
ヤバい!!!
全員がヤバさを察して飛び込み、必死で友人を海から引き上げました。
海岸に寝かせると、彼は息も絶え絶えの状態で、顔は真っ青、体が小刻みに震えています。
「脚でもつったのか?」と声をかけると、彼はかすれた声で言いました。
「何かに脚を引っ張られた」
まさかと思っていると、誰かが「クラゲじゃないのか」とつぶやきました。
たぶんクラゲに刺されたショックでそう感じたんだろう、でもその直後、ひとりの友人が顔をこわばらせ、何かを指差しています。
その先は彼の左足の親指で、髪の毛のような黒く細い繊維状のものが、十数本も絡みついていたのです。
海藻が引っかかったのだろうと取ってやろうと触ると、それは海藻のぬめりもなく、たしかに髪の毛でした。
なつのせいか?
怖くなった私たちは、無言で荷物をまとめ、バス停まで一気に走りました。
帰り道にどんな話をしたのか、正直ほとんど覚えていません。気がついたら自宅にいた、そんな感覚です。
数日後、知人からこんな話を耳にしました。
私たちが遊んでいたあの海岸のすぐ近くに切り立った岸壁があり、1ヵ月ほど前に若い女性が生活苦で飛び込んで命を落としたという。
その話を聞いた瞬間、脳裏にあの黒く絡みついた髪の毛のようなものが浮かびます。
もしあれが、亡くなった女性のものだとしたらと想像しただけで、背筋が凍るような気がしました。
溺れた彼にこの話をしようと思ったのですが、怖くてどうしても口に出せなかった。
あれから何十年も時間が経過しましたが、夏に誘われて思い出す昔ばなし。
※画像はイメージです。


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