あれは三年前の夏だったと思います。
とにかく暑くて、夜になってもモワッとした空気がまとわりついてくるような日が続いていました。
その頃、私はお盆休みを使って、中学生まで住んでいた母の実家もある田舎に滞在していました。海が近くて、夜になると波の音が遠くから聴こえてくるような、静かでゆっくりした場所です。
なにもない田舎は夜の散歩が楽しくて、コンビニで買ったアイスを片手に、浜辺をぶらぶら歩いたりしていました。
ある晩、ふとした気まぐれと懐かしさで、昔通っていた小学校の方まで歩いてみることにしました。
校舎のそばにある遊具のある小さな広場に差しかかったときです。
ブランコに、誰かが座っていたんです。
それが、女の子でした。
小学校低学年くらい。白いワンピースを着て髪を肩くらいで揃え、遠目にも整った顔立ちで、手には赤いビー玉を持っていたのを覚えています。
私はなんとなく声をかけました。
「こんばんは、遅くまで起きてるんだね」
すると女の子は、少し驚いたように顔を上げ微笑んで、
「待ってたの。お兄ちゃんが来るかもって、思ってた」
と答えたんです。
「お兄ちゃん?」と私が訊くと、彼女はこくんとうなずいて続けました。
「前に一度だけここで会ったんだよ。でも、もういないって。だから、もう一度だけ会いたかったの」
私はなんとも言えない気持ちになって、しばらくその子と話していました。
彼女は、いくつか子どもらしい話をして、それから急に立ち上がって、手にしていたビー玉を私にくれました。
「これ、あげるね」
そう言って、彼女は笑って校舎の方へと歩いてったのですが見失い、手のひらには赤いビー玉だけが残りました。
光に透かすとほんのり歪んで見える、どこか懐かしい色でした。
あとから母に訊いてみたところ、私が小学生の頃、事故で亡くなった女の子がいたらしいのです。
夏休みの間の登校日、帰りに寄り道して遊んでいたら川に落ちてしまったそうです。
その子と面識はありませんが、話を聞くとなんだか不思議な感じがしました。
いまでも、あの赤いビー玉は机の引き出しにしまってあります。
たまに手に取って眺めると、あの子の言葉がよみがえってくるんです。
「待ってたの。お兄ちゃんが来るかもって」
ねぇ、やっぱり夏のせいかしら?
※画像はイメージです。


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