睡眠は訓練で短く出来るというオカルト理論が、また語られているらしい。
オカルトはそれ自体に存在価値があるが、あくまで不明を埋めるための間に合わせの建材だ。
それを科学的事実という本物の建造物と誤認し、力を入れて踏みしめれば、待っているのは奈落への落下でしかない。
楽しいオカルト話として、ショートスリーパーを受け容れる姿勢が必要である。
脅威のショートスリーパー
寡聞にして見落としていたのだが「ショートスリーパー」という言葉は、登録商標として平成30年(2018年)に登録されている。
商標コードとしては、9(電気制御用の機械器具)と16(紙、事務用品)だそうだ。
つまり、「ショートスリーパーマシン」みたいな電化製品や、「ショートスリーパーハンドブック」みたいな本に使うイメージだろうか。
権利者は「一般社団法人 日本ショートスリーパー育成協会」。メディア出演もされている、掘大輔氏が代表理事を務める協会だ。
彼らは、睡眠は短縮可能であると主張している。
組織名に「育成」と付くので、何かしら学習である程度素質のある人なら身に付くのだろう。
厳密にはそうではないと言い張っても、そう優良誤認させる意図は見える。ガチの裁判なら十分負け得る表現だ。
ここで睡眠が短縮された結果、1日何時間の睡眠が可能であるか。
筆者はそこで育成を受けた事はないので明確な数字は不明である。
不明であるが、先の優良誤認しやすい情報で言うなら、掘氏の2024年のインタビューで「45分と15分の昼寝2回」という発言がある。
弟子は師を目標にして弟子入りする訳だから、当然目指すところは一緒である。
つまり、彼らの言う“ロマンティックな”「ショートスリーパー」の睡眠時間は、成功例で「1時間15分」という事になる。
強調しておくが、「ショートスリーパー」は、彼らが新たに作り出した概念という訳ではなく、一般的な名詞である。
ウィキペディアですら、最初に記事が立てられたのが、2006年であり、商標登録より10年以上昔だ。
その後、複数のユーザーが編集しているので、単独の誰かによる造語でもない。
一般的なショートスリーパー
一般的な語句のショートスリーパーとは、通常の人間よりも短い睡眠時間で「健康を保てる」人の事である。
通常の人間に最適な睡眠時間は、7時間程度とされ、ショートスリーパーは最短で6時間程とされる。
2019年の研究では、ショートスリーパーとそれ以外を分ける要因は、β1アドレナリン受容体の遺伝子変異、つまり遺伝的な要因であると結論付けられている。
この遺伝子に当てはまらず睡眠時間が短い人は寝不足であり、当てはまっても6時間より短ければ、やはり寝不足である。歳を取ったら睡眠時間が長くなったとか、休日は長く寝るとかいうのは、ショートスリーパーに当てはまらない、ただ今無理しているだけの人だ。
後天的な訓練で身に着けられるとか、6時間よりも更に短い主張する場合、このβアドレナリン説に反証する必要が出るが、現時点でそのような論文は出ていない。
無論、論文による反証は公表という意味であるから、教育メソッドも知れ渡り、協会の言う「ロマンティックなショートスリーパー」のアドバンテージがなくなってしまう。
従って、協会が反証しない事自体に、合理性はある。
合理性はあるが、説得力はない。
従って、ショートスリーパーが育成出来るという説を、我々は信じるべきではない。
ロマンティックなショートスリーパー
だが、ショートスリーパーは一般名詞だ。
協会の語るものだけが全てではない。
掘氏ら以外にも睡眠時間が短いと主張する者がいるし、そういった人の記録も出て来る。
マーガレット・サッチャー、武道家の澤井健一、トマス・エジソン、森鴎外、ナポレオン・ボナパルトなどなど、短眠を標榜する者は多くいる。だが彼らの多くは既に亡く、無理をしていたのか、それとも本当に規格外のロマンティックなショートスリーパーであったのか証明は困難だ。
従って、そのような人については、ひとまず何らかのオカルトパワーを有していたという事にしておくと良いだろう。
まずはオカルトに入れておいて、理屈が繋がったら科学の概念にすれば良い。
オカルトの領域の場合、短眠、不眠というのは比較的珍しくない。
仏教では、釈迦の十大弟子の1人に阿那律が出て来るが、居眠りを咎められて以降、眠る事がなくなり、結果として失明したが心の目は開いたとされる。
ギリシャ神話のイアーソーンは、金羊毛皮を手に入れる時、眠らぬ竜に魔法をかけてようやく眠らせている。
ユダヤ教系の神は、7日目に休んだが「眠る」という描写はない。全知全能であるためには、眠りという隙があってはならない筈だ。無論全能なので眠っていても知覚できるかも知れないが、そういうものは普通、眠りとは考えない。
6時間未満の睡眠で、何の無理もなく健康を保てる、医学的にあり得ない「ロマンティックなショートスリーパー」は、彼らのような絶大なオカルトパワーを持っていたと考えると良いだろう。
この時、それだけの力があるなら、その力でもって目の前の仕事を急いで片付け、その後にのんびりと休めば良いだろう、と思うかも知れない。
だが、世の名はタスク仕事ばかりではない。
接客業のように、相手に合わせて起きていなければならない仕事がある。
何の為に必要な能力か
お分かりだろうか。
「ロマンティックなショートスリーパー」とは、ワンオペ見張り業務にこそ役立つ超能力である。
ツーオペであったり、タスク型仕事であれば、不要な能力だ。
あなたが、どうしてもロマンティックなショートスリーパーになりたいと考えた時、それが本当に必要なものなのか、何故必要と感じたのか1歩惹いて考えるべきだ。
働く職場や同僚との関係性、志望校などを見直すだけで、案外不要になってしまう事もあり得る。
あなたは「ロマンティックなショートスリーパーではないから」仕事が上手くいかない訳でも、勉強がはかどらない訳でもない。
無論、オカルトで少しの間を繋ぐ事は重要だ。
だがその猶予期間は、大元の問題に目を向けるために使うべきだ。
それによって人生のイニシアチブを手元に取り戻す、これが重要なところではなかろうか。


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