大学生になってからというもの、私はめっきりおばあちゃんの家を訪れることがなくなった。
近かった事もあって小さい頃はよく遊びにいったのに、気がつけば何ヶ月は顔を見せにもいってない。
そんなある日、私の携帯におばあちゃんから電話がかかってきた。
滅多に連絡して来ることはないので、「何かあったのでは」と緊張して電話に出ると、拍子抜けするような用件だった。
「家の中を断捨離したくてね。次の休みの日に手伝いに来てくれないかい?」
久しぶりにおばあちゃんの家へ
特に用事もなく、いわれるがまま、久しぶりにおばあちゃんの家に向かった。
昔と変わらぬ古い瓦屋根の家。インターホンを押すとおばあちゃんが元気そうに出迎えてくれた。
家の中は確かに散らかり、ダンボールが積まれ、「捨てるもの」「残すもの」が無造作に分けられている。
「欲しいものがあったら遠慮なく持ってっていいよ」とおばあちゃん。
私はそれをいいことに、ガラスの食器や年代物の置物など、値が付きそうなものを物色していた。
そのとき、ふと視線を感じ、振り返ると棚の奥に一体の日本人形が飾られていた。
ガラスケースに収められ薄い笑みをたたえた、おかっぱ頭の日本人形の女の子。
「こんな人形あったっけ?」
なにげなしにおばあちゃんに聞いてみると、「ああ、それね。昔から家にあったんだけど、ちょっと気味がわるいから押入れにしまっておいたのよ」と軽く答える。
作りは非常に精巧で、着物の生地も古い割に状態がいい。
私はつい、よこしまな気持ちを口にした。
「これ、もらってもいい?」
「いいよ。持って行きなさい」
こうして私は、日本人形を一人暮らしのアパートに持ち帰った。
売るのは後日でいい。とりあえず、部屋の窓際に飾っておくことにした。
その夜
カーテンの隙間から差し込む月明かりが、当たり、ぼんやりと照らしていた。
私は横になったまま、その人形の目を見つめ、この人形はいくらになるだろうかと思っていたとき。
人形の首だけカクッとこちらに向いたような錯覚を覚えた瞬間、人形の目があった。
「見てる?」
心臓が跳ね上がるような思いで、私はすぐに布団をかぶり、震えながら目を閉じた。
時計の針の音だけがやけに大きく聞こえる。1時間はそうしていただろうか。
たぶん気のせいだと思い、そっと棚の方に目を向けると、人形の顔はまだこちらを見ていた。
気がつけば朝になり、恐る恐る確認すると、人形は何事もなかったかのように真っ直ぐ前を向いていた。
昨夜の出来事は、夢だったのだろうか?
どうして良いのか解らない
それ以来、人形を部屋に置いておくことがどうしても気味悪くなった。
売るつもりで持ち帰ったはずの人形だけど、どうにも売る気になれない。
どうして良いか解らなず、売るために持っていた事をおばあちゃんに話して人形を返した。
おばあちゃんは少し呆れた様な、残念な様な表情をしていると。
「すこし待っていてね」と告げ、自室の方へ行った。
なにが起きるのだろう、怒られるのだろうかとドキドキしながら待っていると・・・。
おばあちゃんは私に封筒を手渡して、「今日はおかえりなさい」と告げられた。
やっぱり起こっているんだと思い、これ以上の言い訳しても良くないと感じ、おばあちゃんに軽く会釈をして家路についた。
そして家に帰って、封筒をあけてみると。
結構な金額のお金と「困っているなら、相談してね」と一言書かれた便箋が入っていた。
私は自分の小ささや恥ずかしさなどの感情がグルグル渦巻き、大声をあげて泣いてしまった。
それからというもの
なんとなくおばあちゃんに合いづらくなった。
謝った方が良いかなと思っていると、1年もしないうちに亡くなってしまった。
親戚たちは、「もしかしたら自分の死期を察して断捨離を始めたのかな?」と言っている。
あの日本人形はどうやら手元に残したようだ。
おばあちゃんの居なくなった家の最後の片付けに行くと、人形が睨みつけているように思えた。
※画像はイメージです。


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