家族旅行で青森県を訪れた。
目的は久しぶりに会う祖父ではあるが、今回は観光も兼ねての旅。
祖父の家に泊まった翌日、目的地である温泉地に向かった。
急な寒気
何時間か車を走らせ、昼過ぎにようやく到着した宿屋は古めながらも立派な建物で、エントランスにはスタッフが列をなして出迎えてくれた。
最近ではあまりみかけない昔ながらサービスにおもてなし感を味わえ、家族皆がもりあがった。
他のお客さんで賑わうロビーのラウンジでコーヒーを頂きながらくつろいでいると、それまで元気だったのに急激な寒気が襲ってきて、急にガタガタと震えが止まらなくなったのだ。
まるで誰かが後ろから背中を撫でたような、説明のつかない感覚におかしいなあと思いながら、10分ほどすると、うそだったかのように、体調が戻ってなんともなくなった。
一緒にいた家族は、慣れない長距離運転で疲れがでたからで、今日は早く寝た方が良いねと心配してくれた。
部屋まで
チェックインを済ませ、フロントで部屋の場所を聞くと「奥のエレベーターをご利用ください」と言われたので、私たちはそちらに向かった。
3基のエレベーターのうち、指示通りに一番奥のものに乗り、部屋がある5階のボタンを押した。
古いエレベーターでガタガタと音を鳴らしながら、上へ上へと上がり、5階に到着して扉が開くと、目の前に広がっていたのは真っ暗な廊下。
明かりは一切ついておらず、まるで建物の「使われていない区画」に迷い込んだような、無人の空気が流れている。
自分たち以外の足音も話し声も一切ない。ただ静かで広い闇。
「おかしいね」と思い、1階へ引き返してフロントで話をするとそんな事は無いという。
でも念の為といって従業員の一人が部屋まで案内してくれたのだけれど、そこには明かりのついた廊下と、ほかの宿泊客の姿があった。
さっきの暗い廊下はなんだったのかと家族全員が思ったのだけれど、そんな事は聞けない。既におかしな客だと思われているのか、それともそういう物なのかはわからないけれど、非常にに丁寧に部屋まで誘導してくれた。
なんかおかしい
部屋は角部屋の和室、座椅子とローテーブル、窓際のあのスペースには小さな椅子とテーブルが並んでいる、一見して普通の部屋。
すでに布団が敷かれており、体のだるさが抜けない私は横になった。
すると、「ザーーッ」と激しい雨の音が聞こえた。
「あ、雨降ってきた。観光できないね」
娘が窓を開けてみると、降っていない。
空は曇っているけれど、路面は濡れていないようだ。
にもかかわらず、雨音はが窓の外から、はっきり聞こえる。
「ねえ、雨、降ってないよ?」
部屋が静まり返った。
先ほどまでの家族のざわめきが消え、誰もが自分の耳を疑っている。
音は聞こえる。けれど、雨はない。
何も言わずに窓を閉めた。その瞬間、雨音もぴたりと止んだ。
嫌な感じが部屋にこもり始めていた。
私は具合が良いとは言えないけれど、部屋にいるのが嫌で「せっかくだから出かけよう」と無理に明るく振る舞い、皆で外へ出た。
観光地を巡り、なんとか夜までやり過ごした。
やっぱりなんかおかしい
明かりをつけたまま、家族全員で布団に入った。
何も起きなければいい、そう願いながら目を閉じたけれど、私は途中で目を覚ますと、天井の照明がかすかに「揺れていた」。
地震ではない。空調でもない。
床ごとワイヤーかなにかで吊るされ、ハンモックのように揺れている、そんな不自然な揺れだった。
私は何度も寝返りを打ちながら、なんとか眠りについた。
朝き、目覚めると妻が洗面台で顔をしかめていた。
「なんか、ここ、変な感じがするのよね」
私も試しに鏡の前に立ってみたが、何もおかしいところはない。
ただ鏡越しに映る部屋は、まるで“自分たちが泊まっていた部屋”ではない別の空間のように感じられた。
家族全員が、なにかしら違和感を感じていたのだ。
ホテルを後にして
おかしな体験をしたものの、古風でくつろげる雰囲気の部屋、露天風呂にサウナ、食事も豪盛でなんの文句もない、そばらしい旅館だったのだ。
そんなときに車で移動し始めてから、娘がつぶやいた。
「あの奥のエレベーター。今朝は『使用中止』って紙が貼られてた」
今でもときどき思い出す。
あの「明かりのない階」で、もしそのまま部屋を探していたら・・・。
※画像はイメージです。


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