運動会の声

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去年の秋のことです。
だんだんと赤く染まっていく山を眺めてのんびり歩いて帰宅している途中、なんとなく懐かしさを感じて遠回りし、廃校になってしまった母校の前を通ることにしました。
ずっと廃墟のままで放置された建物、鉄製の門は錆びついて開いたまま、グラウンドは一面に雑草が伸び、白線の名残だけが土の上にぼんやりと浮かんでいます。

フェンス沿いの道を歩きながら、ぼんやりと昔の思い出に浸っていたとき、ふいに耳に「頑張れー!」という声が届きました。子どものはしゃぐ声です。
最初は近所の子が遊んでいるのだと思いました。しかし辺りを見回しても人影はない。声は風に混じって遠ざかるどころか、むしろ校庭の真ん中から沸き上がるように聞こえてきました。

立ち尽くしていると、次々に声が聞こえ、それに合わせて手を打ち鳴らす音、太鼓のような響き。どう聞いても運動会の最中の音でした。けれど、この学校はもう十年以上も前に閉校になっています。

妙に気になって勝手に校庭へと入っていました。踏み荒らされた草の間を進むと、声はますます鮮明になっていきます。耳を澄ますと、歓声の中に「誰かの名前」を呼ぶ声が混じっていました。
最初は知らない名前のように思いましたが、繰り返し聞くうちに、それが自分の名前だと分かりました。しかも子どもの頃、親や友達から呼ばれていた、あの懐かしいあだ名でした。

背筋が冷たくなるのを感じながら、ふと校舎の方に目を向けると、そこには白い帽子をかぶった子どもたちが列を作って並んでいました。黄昏の光に透けるような影で、顔ははっきりとは見えません。
それでも一人だけ、見覚えのある姿が混じっていました。小学生の頃の自分と瓜二つの子どもが、こちらに向かって手を振っていたのです。

次の瞬間、歓声も拍手もぴたりと止みました。
静まり返った校庭の真ん中に、赤白帽がひとつ落ちています。でも私は近寄ることができず、そのまま走って逃げ出しました。

翌日、怖さよりも確かめたい気持ちが勝って、再び訪れてみました。帽子は無くなっていましたが、土の上に白線のような痕跡と、小さな子どもの足跡だけがいくつも残っていました。

それからというもの、秋の夕暮れになると、ふいにあの声を思い出してしまいます。
遠くのグラウンドから誰かに呼ばれているような気がする。
振り返れば、もう一度あの列の中に自分が混じっているのではないかと思うたび、胸が熱くなって眠れなくなるのです。

ノスタルじいさん

「奇妙な話を聞かせ続けて・・・」の応募作品です。
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※画像はイメージです。

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