ダークファンタジー。その最大の魅力とは、死と呪い、そして人の業が渦巻く世界で主人公が闘い、希望を見出していくストーリーではないだろうか。
今回ご紹介する漫画『ケントゥリア』(著: 暗森透)もまたそんなダークファンタジーの王道に連なる漫画作品。
争いと陰謀が渦巻く世界で生き抜く少年の闘いを描いた作品だ。ファンタジーと言えば異世界転生の時代に久々に現れた正統派ダークファンタジーでもある本作。今回はその魅力に迫ってみよう。
受け継いだのは100の命とその想い
今回取り上げる『ケントゥリア』は、ジャンプ+で連載中の漫画作品。中世ヨーロッパ風(モチーフは北欧ヴァイキング?)の世界を舞台にしたダークファンタジーだ。
主人公となるのは、海神の気まぐれによって自分を庇って死んだ仲間たち百人の命と力を与えられ、死の淵から復活した奴隷の少年ユリアン。そしてもう一人の重要人物が、ユリアンの義妹ディアナ。
ユリアンが売られていく奴隷船の中で出会い、人の温もりを教えた女性ミラ。そのミラが船上で産み落とし、ユリアンに託した忘れ形見がディアナである。当然ユリアンにとって初めてできた家族ともいうべき大切な存在なのだが、実はディアナは過酷な運命を背負った赤ん坊でもあった。
なんとディアナは、「王国を滅ぼし世界を混沌に導く」と予言された「呪いの子」だったのだ。
海神の気まぐれによって死の淵を脱したユリアンとディアナだったが、因果なことにその力のせいで人から追われ、精霊や魔物からも狙われる存在となってしまう。
王国から送られる刺客や、海神の加護を嫌う精霊。そんな様々な敵からディアナを守りつつ、家族みんなで安らげる土地を探すユリアン。
本作ではその闘いと旅が美麗な筆致で描かれる。重い宿命を背負った主人公にグロテスクな怪物、異能使いなど、いかにもダークファンタジーといったふうの本作だが、その読み口は意外にもどこかさわやかだ。その理由は物語の根底に流れる善性だろう。
ダークファンタジーと善性。ちょっと食い合わせが悪そうなふたつの要素。このふたつがどう絡まり合っているのか。さらに作品を深堀りしてみよう。
作品のテーマは「子育て」?想いを繋ぐダークファンタジー
貧困、戦乱、人外から与えられる試練と呪いなどを美麗かつ精緻な筆致で描き、運命にあらがう主人公の旅を追っていく漫画『ケントゥリア』。正統派ダークファンタジー作品であり、残酷な描写も多い本作だが、描かれているのは過酷さだけではない。
そもそも、本作の主人公が目指すのは家族との平穏な生活であり、赤ん坊の時に託された義妹ディアナを育てあげること。復讐や下剋上ではない。その目的は極めて真っ当だ。
また、この目的が幼いころに親から売り飛ばされ、人間らしい幸せがわからなかった彼が初めて持った願望というのが泣かせる。
とはいえ、過酷な幼少期を送ったユリアンに子育てなどわかるはずもない。
そんな彼に子育ての心構えやノウハウを教えてくれるのが、旅先で出会う様々な人々だ。とにかく本作では彼らの存在が非常に大きい。主人公ユリアンと違い異能も持たずただ平凡に生きる彼らだが、ユリアンにとっては「平凡」をその暮らしによって身をもって教えてくれる貴重な存在。
特に、ユリアンがディアナを連れて初めて訪れた山間の村に暮らす人々は、ユリアンに大きな変化をもたらす。出会う人々のバリエーションも様々で、正義感の強い巨漢の騎士、老練な狩人とその息子夫妻、訳アリの傭兵と多岐にわたる。そんな彼らとの地味だがかけがえのない生活が、過酷な宿命を持ったユリアンたちの生きる理由となり、彼らを現世に繋ぎ止めていくのだ。
この子育てを軸にした人々と主人公ユリアンの関係性が、本作の根底に流れる「善」の下地になっていると言ってもいいだろう。そのまま描くとうさんくさい綺麗事にしかならないこれらの描写だが、過酷なダークファンタジーの中にぶち込むことで、本作では少年漫画らしい熱を生み出すことにひと役かっている。本作『ケントゥリア』は闇の中に一筋の光が指す、光のダークファンタジーと呼べるかもしれない。
100の命の使い途?主人公ユリアンの選択と決断!
残酷な運命を人の善性が照らす光のダークファンタジー、『ケントゥリア』。だがここで気になるのが主人公ユリアンに与えられた能力だ。海神はユリアンに「共に散るはずだった仲間百人分の力と命」を異能として与えた。これは文字通り百人分のパワーや俊敏さ、回復力を操ることができる能力。
また命も百回分……ゲーム風に言えば残機が100ある状態だ。事実、初めての異能力者戦で命を落としたユリアンだったが、身体の内に眠る仲間が自らの命を使うことで復活している。
「残機が100あるなんて!最強じゃん!」などと読者としては思ってしまうが、その「残機」はユリアンにとっては仲間の命。それも生まれてはじめてできた仲間たちのものだ。旅の中で成長し、優しさや思いやりを手に入れたユリアンにとってこの能力を使うのはなかなかハードな選択となる。
復活が100回と決められている以上、ユリアンは不死身ではない。今後次々と現れる強敵たちと戦う中で、その使い所も重要になってくるだろう。物語の根底に流れるテーマが『善性』である以上、バッドエンドにはならないと思いたいが、このユリアンの能力にはなかなかハラハラさせられる要素が詰まっている。
ユリアンが仲間や周囲の人々と築いた絆が勝ってハッピーエンドとなるのか、力が持つ宿命の重さに負けてダークファンタジーにふれるのか、ユリアンの力が「百人の力と命」である以上、今後もヒリヒリした展開が続きそうだ。
読んでみよう『ケントゥリア』
今回ご紹介した漫画『ケントゥリア』、正統派ダークファンタジーの流れを汲みつつ、主人公の成長や人の善性をテーマにしたある種ジャンプらしい作品だ。
そもそもタイトルの「ケントゥリア」とはラテン語で「百人隊」の意味。
主人公ユリアンの背負ったものは重く過酷だが、身の内100の精鋭が宿っていると思えば心強い。
気になったみなさんはぜひこの機会にユリアンの101番めの仲間として、物語を駆け抜けてはいかがだろうか。
(C) 暗森透 集英社 / ジャンプ+


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